M&A
薬局の合併はなぜ起こる?メリット・デメリットと成功のポイント3つ
日本の薬局業界では、M&Aによる売り上げシェア拡大や、生き残りの戦略が盛んです。調剤報酬や薬価制度の改正に対応し、利益が確保できる業務体系を柔軟に追い求めることは、もはや常識となりつつあります。
また、法人経営の大手企業間による買収・合併が毎年のようにニュースになる中、個人経営の調剤薬局にも合併のメリットは数多くあるため、薬局経営者による水面下での情報収集が進んでいます。
この記事では、薬局の合併が起きやすい現状を踏まえ、合併のメリット・デメリット、売り手が合併を成功させるポイントを紹介します。
1.薬局の合併に関する現状
2020年度末の厚生労働省の発表によると、全国の薬局数は60,000施設を超えており、人口10万人あたりの施設数は約50
となっています。
また、地域社会や高齢化の社会事情に対し薬局の担う役割は大きいとしながらも、将来的な経営の効率化や業務体系の見直しが求められています。
出典:厚生労働省「「薬局の求められる機能とあるべき姿」について」
業務改善の中で、薬局経営者がよりよい経営条件を求めて企業合併やM&Aを試みる流れは自然なことであり、2022年以降も、さらにその傾向が続くでしょう。
1-1.薬局の合併が進む理由2選
高齢化社会に備え、地域医療を強化する日本社会の流れに沿って、薬局業界は今後も高い社会的ニーズを保つとみられています。また、資格を持つ薬剤師の配備や、地域の医療機関との連携といった特殊な構造を持つことから、医薬品の販売に関して、他業種からの新規参入は難しい傾向です。
したがって、薬局業界では経営の効率化・シェアの拡大など、さまざまな目的で吸収合併をはじめとするM&A事例が続くでしょう。
以下では、主に個人経営の薬局経営者が合併を選ぶ理由を2つ解説します。
●売上を増やしたいため
合併により経営規模が安定すると、顧客(患者さん)の獲得や経営効率の面で優位に立つことができるでしょう。また、従業員の確保もしやすくなり、業務体系の見直しも容易になります。その結果、売上の増加や利益率の改善が期待できます。
●後継者が見つからないため
経営者が高齢となった個人薬局は、まずは親族の中から、事業を引き継いでくれる後継者を探すことが通例です。一方で、薬局業界に限らず、近年の日本では親族内への事業承継は減少傾向にあります。廃業する場合も、手間とコストがかかることから「元気なうちに誰かに引き継いでもらおう」と考えるのは、自然な流れです。
1-2.大手企業による合併の例
近年の薬局業界では、大手企業間による合併も盛んであり、そのたびに業界地図が塗りかえられてきました。
2021年10月に「マツモトキヨシホールディングス」と「ココカラファイン」の2社による合併で「マツキヨココカラ&カンパニー」が誕生したニュースは記憶に新しいところです。
この経営統合により、単純計算で両社の2020年度売上高の合計は1兆円に迫ることになり、ウェルシアホールディングスやツルハホールディングスに並ぶ、国内トップクラスのドラッグストアグループが誕生したことになります。両社の統合はドラッグストア業界のみならず、経済界にも大きなインパクトを与えました。
大手株式会社の間で激化するシェア争いは、コロナの影響で業界に追い風が吹く中でも続いています。今後もさらなる合併、資本業務提携、子会社化といったM&A案件の取り組みが、加速していくものと予測されます。
2.薬局が合併するメリット・デメリット
薬局の合併は必ずしもプラスの効果を生むとは限りません。企業にとってマイナスとなるような、思わぬ落とし穴もあります。合併を選んだ場合は、メリットとデメリットをよく把握しておくことが必要となるでしょう。
薬局の合併における主なメリットとデメリットは次の通りです。
2-1.メリット1:後継者問題を解消できる
薬局を継いでくれそうな家族や従業員がいない場合や、高齢で引退を考えている企業経営者にとって、合併により事業継続が保証されるのは大きなメリットです。
もし廃業となれば、患者さんや従業員に迷惑をかける上、廃業コストも負担となります。事業売却または経営権の譲渡により、売り手企業の経営者は、まとまった現金を手にしつつ、後継者問題を解決することができます。
2-2.メリット2:事業拡大につながる
個人経営の薬局はその経営規模の小ささゆえに、地域環境の変化に弱く、調剤報酬の改正などに振り回されるリスクがあります。M&Aによる事業拡大は、環境に起因するリスクを抑えられるのがメリットです。
より大きな薬局グループの傘下に入ることで、経営の効率化、地域におけるシェア拡大などが狙えます。また、業務体系を見直すことにより、営業利益の確保がしやすくなります。新規出店などを計画する場合も、有利になるでしょう。
2-3.デメリット1:従業員が離職する可能性がある
薬局経営者が不用意に合併計画を進めてしまうと、職場環境の変化や雇用条件を嫌う従業員は理解を得られない場合があります。先行きに不安を抱いた従業員が合併成立前に離職してしまうこともあるでしょう。
従業員の不満や離職は、サービスの質の低下、企業価値が大きく下がる、合併計画が頓挫するなどにつながることもあり、大きなデメリットとなります。従業員には事前によく説明し、雇用条件などの希望などを協議しておく必要があります。
2-4.デメリット2:買い手探しに負担がかかる
薬局業界に限らず、M&Aでは買い手側の情報を精査する場合、ある程度時間がかかります。経営者自身が薬剤師としての業務も担っていると、体力的な負担が大きくなるでしょう。一方で、通常業務を優先した場合、好条件の案件や時期的なチャンスを逃してしまう可能性があります。
経営者自身が先頭に立って買い手探しをする場合、業務時間や体力などの負担を考慮した上で、無理のない計画を立てる必要があります。
3.【売り手目線】薬局の合併を成功させるポイント3つ
薬局経営が地域医療を支える側面を考慮すると、薬局の合併は統一されたビジョンのもと、慎重かつできるだけスピーディーに、計画的に行われる必要があります。
ここでは、売り手企業側がスムーズに合併を進めるために役立つ、3つの重要ポイントを解説します。
3-1.合併の目的を明らかにする
合併の目的をはっきりとさせておくことは、薬局の合併における大前提となります。例えば後継者問題と事業拡大のどちらを重視するかで、方向性は大きく変わります。
主目的が後継者問題なら、経営者の引退後も地域医療を支える薬局として、事業継続を最優先にしてくれる買い手を探すことになるでしょう。一方で、事業拡大を重視するなら、M&A成立後も経営者自身が買い手と協力して、積極的に店舗運営に参加する計画が必要となります。
3-2.積極的に情報開示をする
売上の推移や財務状況、従業員の動向といった経営者にとって大切な情報は、M&Aの買い手企業にとって最も重要な情報と言えます。交渉中に、売り手側が中途半端に情報を伏せると、進みかけた合併計画を撤回される恐れもあります。また信頼を損ねると、売り手企業の価値を下げることにもつながり、売却価格にも悪い影響を与えかねません。
M&Aをスムーズに進めるためには、必要な情報は惜しみなく開示し、積極的に相手企業に伝えることが重要となります。
3-3.M&Aの仲介会社を利用する
薬局の合併には明確なメリットがあるものの、デメリットやリスクも存在し、安易に実行すると思わぬ失敗が起きることがあります。また薬局経営の傍ら、経営者が合併の準備をすべて行おうとすると、無理が生じることもあるでしょう。
M&Aの負担を軽減したい場合は、専門の仲介会社に依頼することも1つの手です。できるだけ実績と信頼のある仲介会社を選び、売り手としての希望条件をしっかりと伝えておくことが大切です。
まとめ
薬局業界は、単純な企業努力だけで利益を上げていくことが難しい業界と言われています。特に調剤薬局は、調剤報酬や健康保険のような法にもとづく利益分配があることから、制度などの外的要因にも左右されやすい傾向です。
一方で、専門化された業態とも言えるため、M&Aで得られる効果は大きい傾向です。今すぐ合併を行わない場合も、薬局合併のメリット・デメリットを把握し、必要なタイミングで動けるように備えておくとよいでしょう。