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薬局が人手不足に悩む理由とは?3つの理由と対策を紹介
日本では近年、薬剤師の数が増え続けています。一方で、多くの薬局は人手不足に悩んでおり、少ない人数でお店を回すことも珍しくありません。
薬局が人手不足に悩んでいる背景には、さまざまな理由があります。人手不足を解消したい場合は、薬局の薬剤師が不足している理由を改めて確認しましょう。
今回は、薬局が人手不足になる3つの理由と、人手不足を解消するための対策を解説します。人手不足を感じている薬局の経営者や採用担当者は、ぜひ参考にしてください。
1.薬局は本当に人手不足?
薬局で働く薬剤師の人数を見ると、人手は足りているように見えます。厚生労働省の資料によると、薬局で働く薬剤師は1990年代以降、大幅に増えています。1990年における薬剤師の数は48,811人(※1)に対し、2018年12月末には180,415人(※2)に上りました。
薬局と比較すると上昇率は緩やかなものの、医療施設で働く薬剤師の数も増えている状態です。1990年に41,214人(※1)だった薬剤師の数は、2018年12月末には59,956人(※2)となっています。
薬局や医療施設など、就業場所を問わず薬剤師の数が多くなった理由は、薬剤師の数そのものが増加傾向にあるためです。2018年12月末における薬剤師の総数は311,289人(※2)で、1990年の150,627人(※3)から約2倍に増えました。
出典※1:厚生労働省「医療施設従事医師・歯科医師数及び薬局・医療施設従事薬剤師数の年次推移、施設・業務の種別・年齢階級・性別」
1-1.有効求人倍率は高い状態が続いている
厚生労働省によると、2021年10月時点における薬剤師の有効求人倍率は1.89倍です。同時点における全職種の有効求人倍率は1.06倍であり、薬剤師の有効求人倍率は高い数値を示しています。
出典:厚生労働省「一般職業紹介状況(令和3年10月分)について」
2021年10月時点における薬剤師の有効求人倍率は、過去10年間の数値と比較すると低い状態です。しかし、今なお有効求人倍率は2倍近くに上り、薬剤師の需要が高いため、薬局の人手不足につながっています。
1-2.地方は人手不足が深刻化
薬剤師の需要には地域格差があります。需要は都市圏と地方で隔たっており、地方では人手不足が深刻化している状態です。
厚生労働省は数年ごとに、「都道府県別にみた薬局・医療施設に従事する人口10万人対薬剤師数」を調査しています。人口10万人あたり、何人の薬剤師がいるかを明らかにする調査です。
2018年の同調査によると、全国平均は190.1人です。都道府県別で最も多いのは徳島県の233.8人となっており、以降は東京都の226.3人、兵庫県の223.2人と都市圏が続いています。
一方、薬剤師数が最も少ないのは沖縄県の139.4人で、次に福井県の152.2人、青森県の153.0人となっています。多くの地方が全国平均の190.1人を下回っており、人手不足が明らかな状態です。
2.薬局の薬剤師が不足している理由3選
日本では、2006年に学校教育法が改正され、薬剤師を養成する薬学教育は6年制となりました。以降、薬学系大学や薬学部などが増設されたため、結果的に薬剤師の数が増加しています。
また、大手の薬局チェーンや調剤薬局を併設したドラッグストアが台頭するなど、薬局の市場は拡大し続けています。しかし、盛況に見える薬局業界も、実際はさまざまな課題を抱えています。
例えば、調剤報酬の減額は課題の1つです。医療費を削減したい国の意向によって、調剤技術料や薬学管理料などの調剤報酬は、近年減額される傾向です。調剤報酬の減額は、薬局の経営状況に悪影響を及ぼす可能性も含んでいます。
このほか、高齢化した経営者の後継者不足や薬剤師に課される仕事内容の多様化も、薬局が抱える課題です。後継者不足や仕事内容の多様化は、薬局の人手不足とも相互関係があります。
ここでは、薬剤師が不足している3つの理由を詳しく解説します。
2-1.潜在薬剤師が多いため
薬局の薬剤師が不足している理由の1つは、潜在薬剤師が多いことです。潜在薬剤師とは、薬剤師免許を取得していながら、実際に薬剤師として働いていない人を指します。
今は社会で活躍している女性も、結婚や出産、子育てといったライフイベントを機に離職したり、常勤から非常勤へと働き方を変えたりすることがあります。経験やスキルを持っていても、一度離職した女性にとって以前と同じ条件で復帰することは、容易ではありません。
同様の傾向は薬剤師にも当てはまります。そのため、ライフイベントを機に離職した女性薬剤師が復帰せず、潜在薬剤師の数が増えている可能性があります。
2-2.薬局の数が増えているため
薬局の数が増えていることも、薬剤師の不足を深刻化させている理由です。厚生労働省によると、2019年3月末時点における薬局の数は60,171施設であり、前年同月よりも558施設増えています。
近年は、薬局の店舗スタイルも多様化しています。例えば、病院やクリニックなどの近場で営業する「門前薬局」や、ドラッグストアの大手チェーン、コンビニエンスストアに併設する調剤薬局などです。
薬局の店舗スタイルが多様化して数も増えれば、薬剤師の需要が高まります。しかし、増え続ける薬局の需要に対し、薬剤師の数は足りていない状況です。
2-3.薬剤師免許が不要の仕事に就く薬剤師が多いため
薬剤師免許が不要の仕事に就く薬剤師が多いことも、薬局の薬剤師が不足する理由です。厚生労働省によると、2018年時点、薬剤師免許を取得している人の約6割は薬局で働いているものの、約4割の薬剤師は薬局以外で働いています。
出典:厚生労働省「平成30年(2018年)医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」
薬に関わる仕事の中には、薬剤師免許が不要のものも少なくありません。製薬企業の治験コーディネーターやMR、研究開発などは、薬剤師免許を取得している人にも人気のある仕事です。「接客は苦手」という薬剤師の場合は、薬局を避けることも珍しくないため、薬剤師免許を取得しながらも薬局で働かない人が一定数います。
3.薬局が人手不足を解消するための対策
薬剤師の供給が需要に追いついていない状況は、薬剤師にとっては売り手市場と言えます。そのため、薬剤師はよりよい待遇や労働環境を整えている薬局を選ぶ傾向です。薬剤師から選ばれる薬局になるためには、経営者による待遇や労働環境の改善が欠かせません。
ここでは、薬剤師の待遇や労働環境を改善するために、薬局ができる対策を解説します。
3-1.可能な範囲で待遇を改善する
年収の高さや福利厚生などは、薬剤師が職場を選ぶ際に注目するポイントです。また、労働環境が整っているかどうかも重要となります。
一般的に、人手不足の職場では少人数で仕事を回さなくてはならず、各々の負担が大きくなる傾向です。このような労働環境を理由に離職する人は少なくないため、薬局の経営者には薬剤師が過剰労働とならないよう、労働環境の改善が求められます。
十分な休暇を提供したり、長時間の残業を課さないようにしたりして、薬剤師に安心感を与える努力をすることが必要です。
3-2.ICTツールなどを活用して労働環境を改善する
ICTツールの導入は、長時間労働を含む労働環境を改善する手段の1つです。薬剤師の負担を軽減するだけでなく、オンラインによる服薬指導や夜間運営にも対応できるため、顧客サービスの向上も期待できます。
厚生労働省もICTツールの活用に積極的です。2025年までにすべての薬局を「かかりつけ薬局」とするため、ITCツールによる「患者の服薬情報の一元的・継続的な把握と薬学的管理・指導」を提唱しています。
したがって、ICTツールの早期導入にはメリットがあると言えるでしょう。
まとめ
日本では薬剤師の数が全体的に増えており、薬局で働く薬剤師の数も増加している状態です。しかし、薬局の需要を満たすことができていないため、特に地方で人手不足が深刻化しています。
潜在薬剤師の多さや薬局の増加に加えて、薬剤師免許が不要の仕事に就く薬剤師の多さなどが、薬局が人手不足となっている理由です。
人手不足の解消法には、ICTツールなどを活用して労働環境を改善することが有効です。当記事を参考にして、薬剤師が働きたくなる薬局づくりを推進し、優秀な人材を集められるようにしましょう。