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事業承継の概要と3つの種類|進め方もSTEP別に解説

事業を長く続けていく上で、経営者の交代は避けて通れない出来事です。中小企業では経営者の高齢化に伴うさまざま問題を解決する手段として、事業承継のニーズが年々高まっています。会社の強みを生かした事業承継を成功させるためには「誰に・いつ・どんな方法で引き継ぐか」が重要です。

当記事では、事業承継の概要とその種類、具体的な事業承継の進め方について詳しく解説します。事業承継にまつわる悩みを解決する参考にしてください。

 

1.事業承継とは?

事業承継とは、経営者が会社を後継者に引き継ぐことです。「承継」という言葉には先代の精神などを引き継ぐ意味も含まれており、後継者は会社の経営権や資産だけでなく、会社の理念・経営者の想いも受け継ぎます。

経営ノウハウの引き継ぎや顧客・社員への説明など、事業承継の際に解決すべきポイントは多岐にわたるため、社長交代と区別する形で「事業承継」という言葉が使われています。

 

1-1.事業承継が重要視されている理由

近年、日本の中小企業では経営者の高齢化による業績悪化や廃業の問題が深刻化しており、その問題を解消する手段として事業承継が重要視されています。

中小企業庁が策定した「中小 M&A ガイドライン」によると、中小企業の経営者で令和7年(2025年)までに70歳を迎える人は約275万人で、およそ半数が後継者未定と見込まれています。後継者不在のまま会社経営を続けると、経営者の引退と同時に廃業する事態になりかねません。

中小企業の廃業が相次ぐと、社員の雇用喪失や関連企業の連鎖倒産など社会全体に大きな影響を与えることが懸念されます。また、企業の持つ特許や技術が廃業により失われることも、日本社会にとって大きな損失です。

出典:中小企業庁「中小 M&A ガイドライン-第三者への円滑な事業引継ぎに向けて-」

 

1-2.事業承継で引き継ぐ要素3つ

中小企業庁が公表する「事業承継マニュアル」では、事業承継で後継者に引き継ぐ内容として次の3つの要素を挙げています。

・人

事業承継における「人」の承継は、経営権の承継を意味します。中小企業では経営者の人柄や手腕が業績に大きく影響するため、法的な権利だけでなく、経営者の持つ知識・情報・考え方などを引き継ぐ後継者育成が必要となります。

・資産

事業承継では、経営者個人が所有する株式や会社の事業用資産・資金・許認可をそれぞれ引き継ぎます。資産の承継については税金の問題が関わるため、専門家や支援機関に相談するなどして事前に対策しましょう。

・知的資産

事業承継における知的資産とは、会社の強みとなる無形の資産を指します。人材、技術、特許、経営理念、顧客との信頼関係などがこれに該当します。

 

2.事業承継の種類|それぞれのメリット・デメリット

会社の強みを生かした事業承継を成功させるために、後継者選びは重要なポイントです。特に中小企業では経営のトップである社長の手腕が業績に大きく影響するため、経営に優れた後継者を見出す必要があります。

ここでは、事業継承の3つの種類について、メリット・デメリットを比較して解説します。

 

2-1.種類1:親族内承継

親族内承継とは、経営者の子どもや兄弟などの親族を後継者として事業承継を行う方法です。

・親族内承継のメリット

親族内承継には、早くから後継者を決めることで事業承継のための準備期間を長く取れるメリットがあります。また、他の方法に比べて社内外の関係者から受け入れられやすく、事業承継をスムーズに行うことができます。

・親族内承継のデメリット

親族内承継のデメリットは、親族に企業経営の素質がある人がいない場合の後継者選定や後継者教育が難しいことです。相続人が複数いる場合、事業の後継者とその他の親族の間で相続問題が発生する恐れがあります。後継者を指名する際には、すべての相続人に対して配慮が必要です。

 

2-2.種類2:社内承継

社内承継とは、親族を除く自社の従業員や役員などを後継者として事業承継を行う方法です。従業員承継とも言います。

・社内承継のメリット

社内承継のメリットは、自社の従業員の中から事業運営に対する適性や経営能力の高い後継者を選んで事業承継できることです。長年勤続している従業員であれば会社の理念や経営方針に理解があるため、比較的短期間で後継者教育を行うことができます。

・社内承継のデメリット

社内承継のデメリットは、事業承継にあたって親族・取引先の理解を得ることに時間がかかることです。そのため、後継者の経営に対する意志の強さが重要となります。また、社内継承では自社株を経営者から後継者に引き継ぐことになるため、株の買取資金もしくは相続税の支払いで後継者に金銭的な負担がかかるケースがあります。

 

2-3.種類3:M&A

M&Aは「Mergers and Acquisitions」の略で、企業間の「買収と合併」を意味します。身近に後継者候補がいない場合に、社外の第三者を後継者として事業承継を行う方法です。M&Aには株式譲渡・事業譲渡・合併・会社分割といった手法があります。

・M&Aのメリット

M&Aのメリットは、後継者候補を広く外部に求められることです。資金力のある企業を相手に事業承継するため、経営権を譲渡した後も安定した事業継続が見込めます。また、経営者は会社売却の利益を得ることが可能です。

・M&Aのデメリット

M&Aのデメリットは、事業承継をするにあたって時間とコストがかかることです。また、経営者の希望に合致する売却先を見つけることが難しく、承継後の事業運営が必ずしも経営者の理想通りに持続するとは限りません。

 

3.【STEP解説】事業承継の進め方

事業承継は、次の流れで行います。以下の5つのステップを経ることで、スムーズに事業承継を行えます。

1 現在の課題について把握する
事業承継の第一歩は、自社が現在抱えている経営の課題について把握することです。そのためには、経営状況や資産など、会社を取り巻く現状を可視化して正確に認識する必要があります。このプロセスを通じて会社の強み・弱みを再認識することができます。現在の課題を把握することは、今後の事業運営の方向性を決める際の重要なポイントです。
2 事業承継の方法・後継者を選定する
自社の現状を把握した上で、事業承継を行う際に課題となる事項を整理します。後継者候補の有無によって事業承継の具体的プロセスが異なるため、事業承継の方法と後継者の選定はあわせて検討することになります。後継者に必要な素養・求める条件などを考慮し、慎重に決断しましょう。身近に候補者となる人材がいない場合は、M&Aによる第三者承継の方法を検討しましょう。
3 企業価値を磨き上げる
事業承継は自社事業がさらに発展する好機にもなり得ます。事業承継を行う際は、自社の状況とタイミングが重要です。経営状態がよければ後継者は事業の承継・運営に対して意欲を持つことができ、理想により近い形で事業承継を実現できる可能性が高まります。また、M&Aを選択する場合は買い手が見つかりやすく、希望に近い条件で交渉することができます。
4 事業承継計画の策定、あるいはM&Aのマッチングを実施する
親族内承継・社内承継では、事業承継計画書を作成することが一般的です。事前に把握した自社の現状と課題を踏まえて、中長期的な目標を設定すると同時に、具体的な事業承継のプロセスについて取り決めましょう。経営者と後継者が共同で計画を策定することで、事業承継に向けてやるべきことをお互いが明確に理解できます。M&Aで第三者への事業承継を行う場合は、希望の条件を洗い出し、仲介業者や金融機関の事業承継支援などを利用して譲渡先となる事業者とのマッチングを成立させます。
5 事業承継を実施する
事業を承継する相手と計画の策定の両方が整った段階で、経営資源の引き継ぎを開始します。具体的には、資産の移転・経営権の譲渡などです。事前に策定した事業承継計画書は、必要に応じてブラッシュアップしましょう。社内外への情報共有を綿密に行うことでスムーズな事業承継が可能になります。

 

まとめ

事業承継は、経営者の高齢化に伴う問題を抱える中小企業で近年重要視されています。

親族や自社の従業員に後継者候補となる人材がいない場合は、M&Aで第三者に事業を承継する方法もあります。特に中小企業では経営者の手腕が業績に大きく影響するため、会社の理念などを引き継ぐ後継者教育が大切です。

また、先代経営者の人脈も立派な経営資源の1つです。薬局の事業継承を行う際には、顧客や取引先との関係維持を意識した事業承継で、さらなる事業の発展を目指しましょう。

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